消化管アレルギー  
     

概念


 
消化管アレルギーは、嘔吐や下痢、血便などの消化管症状を主症状とする食物アレルギーの特殊型です。よく知られている即時型食物アレルギーと比べて、IgE抗体が陰性であること、呼吸器症状や皮膚症状がみられないことなどの違いがあります。

 わが国では、すでに50年程前にその概念が発表されています(松村龍雄、臨床と研究 52;2636-2639、1975)が、公的な食物アレルギーの分類に加えられたのは、「食物アレルギー診療ガイドライン2012」が初めてです。米国では,1980年代に概念が確立し、2000年代初頭には食物アレルギー分類に加えられています。


分類・病型・機序

 現在、わが国の公的な食物アレルギー分類では、新生児から乳児期早期に発症する「新生児・乳児消化管アレルギー」(→新生児・乳児消化管アレルギー)のみが、消化管アレルギーとして認知されています。

 米国の食物アレルギー分類では、非IgE依存性消化管食物アレルギー(non-IgE-mediated gastrointestinal food allergy)が、消化管アレルギーに該当します。ミルクが原因の乳児の患者みならず、固形食品による離乳期以降の症例も包含されています。

 病型は、症状により、主に嘔吐と下痢を呈するFPIES(food protein-induced enterocolitis syndrome)と、主に血便を呈するFPIAP(food protein-induced allergic proctocolitis)などが定義されています(→消化管アレルギーの病型と診断基準)。

 機序は、アレルゲン特異的リンパ球の過剰反応による、細胞依存性アレルギーと考えられています(→細胞依存性アレルギー)。典型的にはIgE抗体陰性ですが、実際には、IgE抗体陽性の症例も除外せず、非典型例として扱われます。


新生児・乳児消化管アレルギー

 新生児・乳児消化管アレルギーは、最も早く発症する消化管アレルギーであり、生直後から乳児期にかけて発症します。「新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症」と呼ばれることもあります。

 症状は、軽度の血便のみの軽症型から、下痢が続いて体重増加不良となるもの、激しい嘔吐で脱水やショックに陥るもの、さらに発熱を伴い、重い細菌感染症と似た経過をとる敗血症型まで多岐にわたります。

 原因食品は、ほとんどが牛乳を原料とするミルクです。速やかに診断し、原因食品を除去すれば、その後は無症状で、正常な発育が得られます。通常、2~3歳までに治癒します。

 頻度は低いのですが、母乳が原因で新生児・乳児消化管アレルギーが発症することもあります(→母乳栄養児の消化管アレルギー)。母乳は安全性についての信頼度が高く、それゆえ盲点になる可能性があるので注意が必要です。


固形食品による消化管アレルギー

 離乳食開始以降は、鶏卵や穀物、魚介類などの固形食品が主な原因となります(→固形食品による消化管アレルギー)。わが国では従来、散発的な報告が見られる程度でしたが、ここ数年、報告数が急増しています。

 症状は、主に嘔吐であり、下痢の頻度は低く、血便はほとんどみられません。全く健康な乳児が、特定の食品を摂取するたびに嘔吐することで気づかれるのが一般的です。食べてから嘔吐までの時間は通常、1~4時間です。

 興味深いことに、代表的な原因食品は国ごとに違います。海外では、穀物や魚介類が原因になることが多いのですが、わが国では、鶏卵の卵黄が原因の患者が圧倒的に多く、他に類を見ない特徴となっています。


卵黄による消化管アレルギー

 最近、わが国では、卵黄による消化管アレルギー患者が急増しています(→卵黄による消化管アレルギー)。限られた地域や施設の調査ではありますが、消化管アレルギーの原因食品として、卵黄の頻度が最も高いとする報告もみられるようになりました。

 卵黄による消化管アレルギーが確認された場合、必ず、卵白への反応も調べておく必要があります。多くの場合、卵白への反応はみられず、普通に食べることができるからです。即時型食物アレルギーでは、卵白に反応する患者の方が多く、卵黄は比較的アレルギー症状を発生しにくいのと対照的です。


卵白による消化管アレルギー様症状

 鶏卵の卵白は、即時型食物アレルギーの代表的な原因食品ですが、一部に、消化管アレルギーと同様、消化管症状のみ呈する患者がいます(→卵白による消化管アレルギー様症状)。このような患者は、卵白に対するIgE抗体が陽性であり、atypical FPIESと呼ばれます。日本語では「非典型的消化管アレルギー」と呼ぶことができるでしょう。

 通常の即時型鶏卵アレルギーと、非典型的消化管アレルギーの関係はまだよくわかっていません。異なるメカニズムの関与が想定されますが、最近、相互に移行する症例も報告されています。両者の間には、相違点とともに、何らかの共通点があるのかもしれません。


成人の消化管アレルギー

 最近、成人にも消化管アレルギーが発生することが知られるようになりました(→成人の消化管アレルギー)。食後数時間で腹痛や下痢、嘔吐などの消化管症状がみられる場合、通常は、食中毒が疑われます。しかし、同じ食品で繰り返し症状が発生する場合は、消化管アレルギーも考慮する必要があります。

 小児の消化管アレルギーに較べると、成人患者では、女性の比率が高いこと、嘔吐よりも腹痛や下痢の頻度が高いこと、魚介類が原因の患者が多いこと、治癒する可能性が低いことなどの特徴がみられます。


 

2022年10月6日更新 
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